生産性とは?
公共財団法人の「日本生産性本部」は、生産性を、「あるモノをつくるにあたり、生産諸要素がどれだけ効果的に使われたかということ」と定義しています。
これを営利目的でおこなわれる企業活動に当てはめた場合、「予算や人員などの投資に対し、どれだけ売上をあげられたか」と変換できます。
つまり、少ない予算や人員で大きな成果を上げられる企業は生産性の高い企業となるわけです。
大量の予算と人員を投入した割に思うほどの成果につながっていなかったり売上を上げられていないような企業は、生産性の低い企業ということになります。
生産性の向上と業務効率化の違い
生産性の向上と業務効率化はよく混同されてしまいがちですが、同じものではありません。相関関係はあるものの全く異なるものなので、分けて考えるべきです。
業務効率化は、普段の業務における無駄な部分をピックアップし、改善していく工程を指す言葉です。古いやり方・非効率なやり方でおこなっている業務や作業を、効率化し、改善していきます。
業務効率化は、その性質上、生産性を向上させるための取り組みやプロセスの一つと捉えられます。つまり、「業務効率化に取り組むことで生産性も高められるようになる」ということになるわけです。
生産性の向上が注目されている理由
今現在多くの企業がこぞって生産性の向上に取り組んでいる主な理由としては、
・海外と比べて生産性が低いため
・高齢化により人手不足が加速しているため
の、2点があげられます。
それぞれ詳しく解説していきます。
海外と比べて生産性が低いため
生産性の向上が注目されている主な理由の一つ目が、日本の生産性の低さです。日本の生産性の低さは以前から指摘され続けており、長年問題となっています。
公益財団法人日本生産性本部が公表している「労働生産性の国際比較」というデータを見てみると、労働者一人あたりの労働生産性は837万円ほどとなっています。この金額は、OECD(経済協力開発機構)の加盟国である36ヶ国のうち21位という低水準です。先進主要国の中では最下位となっています。
労働政策研究・研修機構が公表しているデータによれば、日本の平均年間総実労働時間は年々減少してきていますが、一人あたりの生産性は2000年ごろからほとんど変化していません。
これは、長時間働き続けると生産性が低下してしまうため国として長時間労働の緩和に取り組んで改善されたにも関わらず、一人あたりの生産性はほとんど変わっていないということを表しています。
これからはグローバル化がより加速し、海外企業との競争がより激化していくと予想されているため、労働生産性を海外企業と同じ水準まで高めなくてはいけません。そのような観点から、生産性の向上に注目が集まっています。
高齢化により人手不足が加速しているため
日本は世界でも類を見ないほどの超高齢化社会です。出生数が初めて80万人を下回ってしまったことを考えると、この流れは今後も加速し続けていくと予想されます。
実際、2005年をピークに生産年齢人口の数も減少し続けています。つまり、今後は人手不足がより顕著になり、人材を獲得するのが難しくなっていくわけです。
生産年齢人口が減少し、人材を獲得するのが難しくなっていくにも関わらず、社員一人あたりの生産性が低いままだと企業としての競争力はどんどん低下していってしまいます。その状態では海外企業との競争に勝つことはできません。
これからますます加速していく超高齢化社会の中で海外の企業との競争に打ち勝つためには、生産性の向上が必須になるわけです。
人口が減少し、生産年齢も減少していく中で企業がとれる主な対応は、社員一人あたりの生産性を高めることぐらいしかありません。そのため、多くの企業が生産性を向上させるための取り組みに注目しているのです。
生産性の測定方法
自社の生産性について見直そうと考えているのであれば、まずは生産性を測定しなくてはいけません。
生産性は、主に「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」の2つに分けられますが、それぞれ算出方法が異なります。
物的労働生産性の計算式は以下のとおりです。
生産量(生産数量や金額)÷労働投入量(労働者数×労働時間)
一方、付加価値労働生産性は以下の式によって求められます。
付加価量(営業利益+人件費+減価償却)÷付加価値投入量(労働者数×労働時間)
生産性の主な種類
生産性の主な種類は、先程紹介した「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」の2種類があげられます。
全要素生産性というものもありますが、こちらはどちらかと言えば国の生産性を算出する際に用いられるようなもので、一企業の生産性として用いられることはありません。
物理的労働生産性は、社員一人ひとりがどれだけ効率的に業務をおこなっているかを表す指標です。
物理的労働生産性を向上させたいと考えた場合、生産量を向上させることはもちろん、労働者数や労働時間をどのようにして削っていくかも重要になります。
一方、付加価値労働生産性は、社員一人あたりの付加価値に関する生産性です。付加価値を社員数で割ることで算出できます。
付加価値労働生産性が低いと、社員一人あたりが生み出す付加価値が低いということになるため、社員一人あたりの生産性をどう高めていくかを考えなくてはいけません。
生産性が低下する要因5つ
生産性を向上させるには、まず現状を把握しなくてはいけません。生産性を低下させている要因がどこにあるのかを把握し、その要因をどう取り除くかを考えなくてはいけないわけです。
生産性が低下する主な要因としては、
・マルチタスクの常態化
・長時間労働の常態化
・個々の能力差
・アナログな作業が多い
・安易なデジタル化
の、5点があげられます。
それぞれ詳しく解説していきます。
マルチタスクが常態化している
複数の作業を並行して進めることをマルチタスクと言いますが、マルチタスクには向き不向きがあるため注意しなくてはいけません。
得意な人ばかりの会社であれば、マルチタスクが常態化していても生産性が下がることはありません。むしろ生産性が向上する可能性もあります。
一方、マルチタスクは、複数のことを同時に並行して進めるのが苦手な方に強いてしまうと生産性を著しく低下させてしまいかねません。
マルチタスクは、苦手な人がおこなってしまうと注意散漫になり、ミスも起こりやすくなります。
長時間労働が常態化している
社内全体の生産性を大きく下げる要因の一つが「長時間労働」です。
マルチタスクの常態化はマルチタスクが苦手な人の生産性のみを下げる要因でしたが、長時間労働は社員全員の生産性を著しく低下させるので非常に厄介だと言えます。
どれだけ優秀な人でも集中して仕事に取り組める時間には限界があり、その限界を超えると徐々に生産性が低下していくものです。
長時間労働が常態化して社員の残業が増えると、残業代としてコストも増加するわけなので、長時間労働の常態化は余計なコストをかけて生産性を低下させているようなものです。
生産性はもちろん、コストの面で見ても長時間労働が常態化している状況は早急に改善するべきだと言えます。
組織のメンバーの能力に差がある
組織のメンバーの能力に差がある場合も生産性が低下してしまいがちです。個々に能力差があるのは当たり前ですが、あまりにも能力差が大きくなり過ぎてしまうと、能力の高い人にさまざまな業務を任せる傾向が強くなります。
本来、能力の高い人は、単純作業を避け、より高い能力の求められる作業に割り振るべきです。余計な業務を割り振ることでのマルチタスクや長時間労働を強要してしまうような状況は避けなくてはいけません。
ただ、そういった人は、能力が高いということでさまざまな作業を任せられる・お願いされる傾向にあるため、結局単純作業なども任されるようになってしまい、生産性も低下するようになります。
生産性の高い優秀な社員の生産性が低下すると、全体の生産性も著しく低下してしまいます。
アナログな作業が多い
デジタル化やDXを推進できていない企業ではアナログな作業に時間を取られ、生産性が低下する傾向にあります。デジタル技術を駆使できる業務であればいくらでも効率化できますが、アナログな作業は効率化に限界があります。
アナログな作業に対する生産性を高める処置としては、個々のスキルを高めて作業スピードを向上させるしかないため、生産性の向上にもすぐに限界がきてしまいがちです。
アナログな作業はどうしてもマンパワーに頼らなくてはいけなくなってしまうため、アナログな作業が多くなると会社全体の生産性も著しく低下します。
安易なデジタル化
生産性の低下を招くアナログな作業を見直すためにデジタル化を進めたりDXへの取り組みを推し進めるのはいいことです。
ただ、「とにかくデジタル化すればいい」という安易なデジタル化は、さらなる生産性の低下を招いてしまう可能性があるので注意しなくてはいけません。
デジタル化やDXにとらわれ、よく吟味せずにデジタルシステムを導入してしまうと、かえって業務を煩雑なものにしてしまう可能性があります。
生産性を向上させる施策6つ
生産性が低下している理由をハッキリさせることができたら、施策を実施し、生産性の向上に取り組みましょう。
生産性を向上させる主な施策としては、
・現状の把握
・人材育成
・労働環境の整備
・デジタル化の見直し
・業務のデジタル化
・外注化
などがあげられます。
それぞれ詳しく解説していきます。
現状を正しく把握する
生産性を向上させたいと考えるのであれば、まずは現状を正しく把握することが大切です。現状を把握せず感覚だけで生産性の向上に取り組んでも良い結果はでません。
先述した生産性の測定方法を活用し、現時点での生産性に問題があるのかどうかをハッキリさせましょう。
感覚的に生産性がよくないと感じられても、「測定した結果それほど悪いわけではなかった」ということは多々あります。
その場合、いくら生産性を高めるための施策を推し進めても思うような結果を得られない可能性が高いので、別のアプローチを考えなくてはいけません。
また、社内での生産性に関するアンケートや意見聴取をおこない、現場の現状を把握することも大切です。
人材育成をおこなう
組織のメンバーの能力に差があると感じられる場合は、人材育成をおこなって個々の能力差を埋めるようにするべきです。
個々の能力差が大きいと、能力のある人に頼ることが常態化してしまう傾向にあり、生産性が下がります。
そういった状態を避けるためにも、社員教育のシステムを整えて人材育成をおこない、個々の能力差をなくして、特定の社員への依存度を低くしましょう。
そうすることで生産性の低下を抑制できるようになりますし、個々の能力が高まることで生産性を高められるようにもなります。
労働環境を整える
生産性を高めたいのであれば労働環境を整えることも大切です。例えば、導入しているPCのスペックがおこなっている業務に見合わないようなものだと、いくら社員の能力が高くても生産性は低くなってしまいます。
極端にスペックの高いPCを導入する必要はありませんが、快適に作業できる業務に見合ったPCへの買い替えは検討するべきです。
もちろん、PCだけでなく、デスクや椅子などの基本的な設備についても必要であれば新しいものに変更するべきでしょう。スタンディングデスクなど、生産性の向上につながるとされている設備を導入してみるのもおもしろいかもしれません。
設備を整える際は、社員へのヒアリングを実施し、最優先で導入するべき設備や改善するべき設備を見極めた上で対応を進めるようにしてください。
デジタル化を見直す
社内のデジタル化がうまくいっておらず、そこが生産性の向上を阻害していると感じられる場合は、一度デジタル化を見直してみるのも一つの手です。
業務の効率化を図るために導入したデジタル化で余計な業務や作業が増え、生産性が低下するのは珍しいことではありません。
デジタル化の進め方が間違っている企業が多い点は、日本のDXが進まない要因の一つでもあります。まずは社内のデジタル化されている部分やデジタル化のために導入したシステム、ツールをリストアップし、生産性を高める上で本当にそれらが必要なのかどうかについて見直してみましょう。
本当に必要なもので生産性の向上に貢献しているのであれば見直す必要はありませんが、逆に生産性の向上を妨げている場合は見直しが必要になります。
業務をデジタル化する
生産性の向上を考える上で業務のデジタル化やDXへの取り組みは避けて通れません。
「業務を効率化してくれるWebツールを導入する」という簡易的なデジタル化でも生産性が大きく向上することは少なくありませんし、工場の生産ラインにロボットを導入して製品の生産の一部を自動化するような大掛かりなDXへの取り組みは、生産性を飛躍的に向上させてくれます。
デジタル化やDXによって効率化できるところがないかチェックし、改善できそうなところがあれば改善していきましょう。
ただ、デジタル化やDXはコストがかかりますし、慣れるまでは逆に工数が増えることも少なくないので、そのことへの理解と社員への周知が必須になります。
外注する
生産性を高めたい場合、社内で問題を解決することにこだわる必要はありません。外注できるところは積極的に外注するべきです。
例えば、能力の高い人が誰でもこなせるような単純作業に日々何時間も時間を取られてしまっているような状況は生産性が高いとは言えません。単純作業をアウトソーシングすれば、優秀な人材がより重要度の高い業務に割ける時間が増えるようになり、生産性が高まるので外注化を考慮するべきです。
また、専門的な作業を外注するのも一つの手です。例えば、ホームページ制作やアプリの開発などWebでの作業に慣れていない人がその分野を一から勉強してその作業を担う行為は効率的ではありません。それよりも、外部の制作会社やフリーランスに外注して対応してもらう方がよっぽど効率的です。
いい外部パートナーは今後も貴社のビジネスをサポートする心強い味方になってくれるので、外注も検討してみてください。
まとめ
「生産性とは」というテーマを深堀りして紹介してきました。少子高齢化が急速に進む日本の企業では、生産性を向上させることが急務です。
もし生産性が低いと感じたり、生産性が低下していると感じられるのであれば、率先して生産性の向上に取り組むべきです。
生産性を高めるためにできることは多いので、自社の生産性が低下している原因をリサーチし、原因に合った方法で生産性を高めていくようにしましょう。
ただ、実際に取り組むべきどうかについては、本当に生産性が低いかどうかを確認した上で決めるべきなので、今回紹介した測定方法を参考にしながら生産性を算出し、自社の生産性が低いかどうかをチェックするところから始めるようにしてください。