飲食店には欠かせない「QSC」とは?
QSCとは、特に飲食店などを経営する際に基本となる3つの指標のことであり、以下の3つの単語の頭文字から表わしている略語です。
・Quality(クオリティ)
・Service(サービス)
・Cleanliness(クレンリネス)
飲食店経営に欠かせないと言われているQSCですが、他にも小売店やサロンなどといったサービス業でも導入されています。
このQSCの考え方を提唱したのが、マクドナルドを創立した「レイ・A・クロック」です。マクドナルドでは、QSCの指標をそれぞれ以下のように示しました。
・Q:提供するメニューの品質
・S:接客の品質
・C:店舗の清潔さ
QSCの考え方を基本にしてマクドナルドでは行動マニュアルを詳細に作成し、品質管理のチェック項目も細かく設定しました。
そして全店舗でマニュアルを徹底した結果、どの店舗でも品質が統一されたため事業拡大につながったのです。
マクドナルドの成功事例が、飲食店などでQSCが導入されるきっかけになったと言われています。そのため、QSCの3つの指標は店舗経営において重要なものです。
お客様の満足度はもちろん、リピート率を上げるために欠かせません。
Quality「クオリティ」
店舗で提供する商品やサービスの品質を指すのが「Q:クオリティ」です。飲食店を例に挙げると料理の美味しさだけではなく、料理に使用されている素材の新鮮さや料理の提供スピードなどといったことも含まれています。
具体例としては、以下の通りです。
・料理の味、美味しさ
・料理に使用されている素材の新鮮さ
・料理のボリューム
・料理提供時の温度やスピード
・料理の盛り付けなどの見た目の美しさ
・メニューの種類や数
また、提供するサービスの品質に適している価格の設定も大切です。「料理の品質が低いのに価格が高い」とお客様が感じてしまうと、お客様の満足度に影響を及ぼしてしまいます。
お客様の感じる品質に適している価格に設定する必要があるのです。
そして、品質の維持や向上に力を入れつつ、品質の低下を防ぐために定期的な見直しも行いましょう。特にチェーン店といった複数店舗で経営している場合は、全ての店舗で品質を統一し維持することも重要になります。
Service「サービス」
接客の品質を意味し、入店から退店時までのお客様に対しての対応全般のことが「S:サービス」です。サービスには、店舗全体の雰囲気についても含まれています。
接客の品質の主な具体例は、以下の通りです。
・お客様に対しての言葉遣いや接し方
・お客様への声かけのタイミング
・お客様とのコミュニケーションの取り方
・お客様への対応スピードや丁寧さ
・お客様の求めるニーズを先読みする力
接客の品質が高いと、お客様の満足感も高くなりリピートにもつながります。美味しい料理に満足できても接客に不満が出ることで、お客様の店舗に対しての満足感を生み出すことはできません。
接客の品質が高いことは、美味しい料理のサポートにもなります。
さらに接客の品質は店舗選びの大きな選択肢にもなります。そのため、お客様とのコミュニケーションの中でいかに高い接客の品質を提供できるかが重要です。
入店から退店時の各段階において、接客の品質を高めることが必要になります。
特に近年では店舗への評価をSNSや口コミも紹介するサービス等で簡単に知ることが可能です。このような手段は店舗選びをする方法の1つともなっています。
店舗に対しての満足感や評価は、接客1つで大きく左右され判断材料にされることもあるのです。
Cleanliness「クレンリネス」
店舗の清潔さや従業員の清潔さを意味しているのが、「C:クレンリネス」です。特に飲食店においては食べ物を扱うことから、清潔さに関しては見落とすことのできません。
店内で過ごしてもらうために清掃は隅々まで徹底し、清潔な状態の維持が必要です。
また、店舗内の目につく部分のみではなく、トイレや調理場などといった隅々まで清潔を維持するといった衛生管理も行いましょう。
清潔ではない部分が1か所でも見えてしまうと、店舗の清潔さに対し疑念が芽生えお客様に不快感を与えてしまいます。
そして、従業員の制服の汚れや着崩れはないか、爪が伸びていないかといった身だしなみに対して十分にチェックするようにします。従業員に対して清潔さを感じられると、店舗に対してお客様の安心感や満足度が上がるのです。
QSCが重要な理由
安定した売り上げや利益を上げ経営を続けていくためには、QSCの向上は必要不可欠です。
サービスや商品の質はもちろん、従業員が行うサービスの質や店舗・従業員の清潔さがお客様の満足度につながり、リピーターが増えることで安定した経営につながります。
また、リピーターが増えるとリピーターを通して新たな集客も見込みやすくなります。反対にリピーターが増えないと常に新規の集客が必要となり、経営が不安定になる可能性もゼロではありません。
リピーターの獲得において大きく関わってくるのが、QSCの3つの指標です。QSCのどれか1つが欠けてしまうとお客様の満足度につながりません。そのため、安定した経営を続けていくためにはQSCが重要なのです。
さらに付加価値を上げるための+αの要素とは?
安定した経営のためにはQSCの向上が必要ですが、さらに+αの要素を追加することで付加価値を上げられます。店舗ごとに独自の考え方もあるとも言われますが、付加価値を上げるための代表的な考え方は以下の3つです。
+H(Hospitality)おもてなし
おもてなしを意味するのが「+H:ホスピタリティ」、お客様に居心地の良い・快適な時間を過ごしてもらうために意識して行動する考え方です。
いわゆる気遣いのことでもあり、定められているマニュアル通りに対応するということではありません。
臨機応変に対応できる気遣いは他店との差別化になり、満足度の向上にもつながりやすいです。
ホスピタリティの具体例としては、以下のようなものがあります。
・事前にアレルギーの有無を確認する
・料理の量の変更が可能なことを説明する
・リピーターの注文歴や好みを把握した上でおすすめのメニューを提案する
・お子様連れに対してお子様用の皿やエプロンが必要か声かけする
・汗をかいているお客様に対しておしぼりを2つ渡す
・クーラーの近くや室温に応じてブランケットを貸し出す
・グラスが空いていたらおかわりについて声かけをする
このようなおもてなしの心を持って接することで、お客様は感動体験ができ店舗の評価向上につながる可能性が高いです。
従業員1人だけが行うのではなく、全員でホスピタリティを意識しサービスを向上していくことで、お客様の満足度がさらに引き上げられます。
+V(Vale)価値
満足度を上げるために実現する価値のことを「+V:バリュー」と言います。
QSCの発祥であるマクドナルドでは、+Vを加えたQSCVが企業理念にもなっています。これは、QSCのレベルを高い状態に維持することで、価値の提供が初めて可能になるという考え方です。
飲食店においてバリューの具体例としては、以下のようなものがあります。
・期間限定メニューや来店スタンプの提供
・コンセントの使用を許可する
・キッズスペースの設置
・店内のコンセプトに合わせ入店可能な年齢を制限する
上記のように、他店にはないお店に来店する付加価値を提供できることで、満足度の上昇やリピーターにつながる可能性が高いです。また、リピーターが増えることで新たな集客を見込めるといった可能性にもつながります。
よって、バリューの考え方を取り入れる際は対象とするお客様の層・どのような価値を提供するのか、よく考えて実行することが必要です。
+A(Atmosphere)雰囲気
店舗の雰囲気のことである「+A:アトモスフィア」はQSCのサービスと同様な部分もあります。
飲食店を選ぶ際に、店舗の雰囲気も重視する方もいるでしょう。雰囲気が気に入りリピーターとなり、何度も足を運ぶようになるケースもあるのです。
アトモスフィアの具体例には、以下のようなものがあります。
・店内のインテリアや内装を明確なコンセプトで統一する
・コンセプトに応じ従業員は雰囲気や言葉遣いに気を配る
・BGMなどの活用により雰囲気の細部にまで気を配る
しかし、この+Aを実施するにあたって注意するべきこともあります。それは、雰囲気の好みは人それぞれであることです。
雰囲気が最高と思う方もいれば合わないと思う方もいるかもしれません。全ての人が好む雰囲気を作ることは難しいのです。
雰囲気で満足度を上げたいと考える際は、店舗のコンセプトを明確にしましょう。結果として、店舗のコンセプトや雰囲気に惹かれた人々が集まってくることにもつながります。
QSCを向上させるための4つのポイント
QSCの向上にて大切なポイントは、以下の4つが挙げられます。
・お客様の声を受け止める
・改善案を実施する
・トレーニングやマニュアルを徹底する
・従業員の満足度も向上させる
ここでは、4つのポイントについて解説していきます。
お客様の声を受け止める
QSCの向上には、まずお客様の声を受け止めることが重要です。お客様の満足度は可視化することができません。そのため、アンケートに回答して頂き店舗への満足度や評価を可視化できるようにしましょう。
アンケートを実施する際はQSCに関係する項目も設問に入れ、お客様の声を収集し分析をします。お客様の視点による声は、具体的な意見や要望を得ることが可能です。優先して改善すべき点についても見えてきます。
そして、お客様の声を分析し定期的に従業員同士で話し合いをすることもおすすめです。お客様の声で良かった点を強みとし、改善すべき点を周知していくことでQSCの向上にもつながります。
改善案を実施する
改善すべき点を把握したら、解決策について具体的に決めていきます。いつ・誰が・どのように行うのかを明確にし、行動ができているかチェックシートなどを活用しましょう。
特にチェックシートは、誰が行っても同じ品質を提供するためにおすすめです。
例えば、店内の清潔さが改善すべき点であれば、見た目のきれいさ以外にも注意点もチェックシートに盛り込むことで、改善すべき点の共有もしやすくなります。
従業員同士で改善案・解決策を共有することで、従業員の意識も変化しやすいです。
また、チェーン店といった複数店舗を経営している場合は、他の店舗で挙がったお客様の声も参考にし、サービスの質を統一させます。ツールなどを活用し情報共有の漏れを防ぐ工夫も必要です。
トレーニングやマニュアルを徹底する
お客様の声を受け、QSCの項目ごとに改善点が見えてきたら改善案を実施します。中には、トレーニングやマニュアルの徹底をすることが、QSCの向上につながることもあるのです。
例えば、飲食店であるとクオリティについては料理人によって多少の差が出る可能性があります。味やボリューム、盛り付けなどどの項目においても均一のクオリティで提供するためには、徹底的にトレーニングが必要です。
また、クレンリネスに対して評価が低い場合は清掃回数を増やすことはもちろんですが、清掃方法が従業員ごとに異なると一定の清潔さを保つことが困難になります。
そのため、清掃に関しては場所や時間、手順などをマニュアル化しておくようにしましょう。
従業員の満足度も向上させる
QSCを向上するには従業員の力が必要になります。そのためには、従業員の満足度の向上も欠かせません。従業員の満足度が向上すると、仕事への姿勢や働くモチベーションが高くなるため自然とQSCの向上にもつながります。
実際に従業員の満足度を向上させる取り組みの例としては、以下のようなものがあります。
・給料などの評価と連動させる
・社内で表彰する制度を設けて表彰する
・休暇制度など福利厚生を手厚くする
従業員の働く環境や待遇面を整えることは、店舗の価値を向上させるために重要です。QSCの状態をみながら従業員の満足度向上のために何から行った方がよいのか判断することは、経営者に求められる力の1つでもあります。
チェックシートの導入はQSC向上には有効
QSCの向上には、まず手軽に行うことができ有効なのがチェックシートの導入です。QSCの要素ごとに細かく項目を設定しチェックシートを活用することで、改善すべき点を簡単に把握することが可能です。
QSCは誰が行っても同じ品質を提供する必要があります。そのため、チェックシートは作成して終わりではなく、従業員全員で共通し運用することでQSCのレベルを同じ水準で維持することにつながるのです。
また、チェックシートの項目例についてクオリティ・サービス・クレンリネスそれぞれについて紹介します。
Quality「クオリティ」のチェック項目例
・使用する食材は定められた基準内の鮮度を満たしているか
・マニュアルに調理工程の全てが記載されているか
・マニュアル通りに調理工程が実施されているか
・料理の見た目は指定されている基準が守られているか
・お客様からのご意見を集める方法が設けられているか
・食材の廃棄量は定められている基準内であるか
・調理後の料理を提供するまでのスピードに遅れがないか
Service「サービス」のチェック項目例
・お客様へのあいさつがきちんとできているか
・お客様に笑顔で対応できているか
・従業員同士で無駄な私語をしていないか
・お客様の来店から席までの案内がスムーズに行えているか
・お客様とのコミュニケーションが不足していないか
・お客様に必要な情報を提供できているか
・混雑時の対応でお客様が不満を持っていないか
・クレーム発生時の対応がオペレーション通りに行えているか
Cleanliness「クレンリネス」のチェック項目例
・客席の清掃状態に不備がみられないか
・テーブルや椅子は定期点検し、必要に応じて修理しているか
・客席のテーブル上の調味料などは清潔に保たれているか
・トイレは定期的に清掃や点検が行われているか
・カウンターや棚などの清掃や整理整頓が行われているか
・調理器具はその都度洗浄をし、清潔な場所で保管されているか
・調理場の換気扇などの清掃を毎日行っているか
・冷蔵庫に保存している商品等にカバーはかけられているか
・従業員の身だしなみが整っているか
・駐車場の掃除が行われており、きれいな状態が保たれているか
・感染症対策のルールが定められており、規定通り実施されているか
まとめ
いかがでしたか?この記事では、QSCのそれぞれの項目についてやQSCを向上させるためのポイントなどについて詳しく解説しました。
店舗経営をするにあたって、特に飲食店ではQSCの向上は必要不可欠です。QSCは売り上げや利益向上にもつながる指標でもあるので経営の際の参考にし、実践してみてください。